リストラ
一年と三ヶ月。長い付き合いであった。今日、ついに捨てられた。上に
立つ人間には、情けというものが無いのか。これまでずっと無能な人間達
の下、称えられることもないまま、ただ、黙々と付き従ってきた。こいつ
らのことは、友だと思っていた。確かに仕事は辛かった。だが、どんな時
も文句、聞苦しい言い訳など言ったことは無い。傷ついても耐え、社員た
ちを助けて、手足となり共に働いてきた。それなのに捨てられた。
何時間が経ったのか。クビになってからの時間が、とても長く感じる。
人のいない公園で、ただ、雨に打たれるがままの時間が続いている。子
供がやってきた。俺の存在など無視するかのように遊び始める。
解ってはいた。この世界は弱肉強食。俺のような立場の弱い奴は、まる
で読み捨てられる新聞並みの扱いだ。それでも、一年以上も生き延びる事
ができた。俺の友人などは一ヶ月で捨てられたものだ。いい環境の中で、
生きてきた。あわよくば、この先何十年もいれる、という期待も少しはあ
った。が、捨てられてしまった以上は、もはや何も言う事はできない。こ
れからの人生、俺はどう生きていけばいいのか。果ては生きられるのか。
気がつけば、ゴミの中にいた。俺は、これからどうなるのか。このまま
誰にも気付かれず、この世から消えるのか。俺が死んだところで悲しむ人
間などいない。もう少し生きたい。思っても無駄なことだ。やがて夜も更
ける頃、“俺”こと『軍手』は、焼却炉の中で、灰となろうとしていた。