派遣バイト | ◆短編ブログ小説◆

派遣バイト

こんな仕事に、果たして未来はあるのだろうか

 そう思ってしまう日々がもう一ヶ月以上も続いている。政雄は、そう考

えてはいながら、それでも今の生活から抜け出せない自分が情けなかった。

 椅子のうえに置かれた紙。一人一人の力が、やがて巨大な物を生み出す

原動力に。文面ではそう書かれていても、要は奴隷扱いである。派遣の仕

事など何の勲章にもならない。毎日、決まった時間に工場に行き、毎日同

じ仕事をし、そばにはいつも同じ人がいる。友達も出来ない。新しい技術

も身につかない。かと言って、生活があるから辞めるわけにもいかない。

 明日も、工場に駆り出される。35歳にもなって、若者と共に働くのが

苦痛だった。出勤表を書く時間はさらに辛い。あの人働きすぎだよ。ちゃ

んとした仕事に就けばいいのに。出勤表を覗かれては、影でそう言われて

いるような気がする。辞めてやる。仕事が終わるたびに、思う。しかし、

新しいアルバイトを探している自分の姿が想像できない。システムとして

は、派遣ほど楽なものは無い、と考えているのだ。このシステムに甘え続

けた結果が、今の生活なのだ。

 翌朝、工場へ向かった。ニートの普及は広がり続けている。働いてるだ

け、まだマシだな。制服に着替え、風通しの悪い工場で、今日も作業が始

まる。何分かすると、一人の青年が政雄の傍に立っていた。

「あの、これどう組み立てるんですか? 小さくてやりにくいんです」

 政雄に仕事を聞きにくる若い連中は多い。説明してやると、嬉しそうに

お礼を言う。何が嬉しいんだ。政雄には、それが解らなかった。

 昼休み。煙草を吸って、弁当を食べる政雄に、恐る恐る話しかけてくる

若者がいた。先ほどの若者だ。話しかけにくいのだろう。緊張している。

「さっきは教えてくれてありがとうございました。嬉しかったです」

「何が嬉しいんだ?仕事なら俺より社員に聞いた方が早いだろ」

「いや、社員の人は怖いというか近づきたくないんです。ほとんどの人が

ロボットみたいで。向こうはそうは思ってないんでしょうけど。それに先

輩の方が優しく教えてくれるってみんな言っていますよ」

気が付けば、社員を除くと最年長になっていた。作業も、一番早い。そ

の後、そんな政雄を頼りにしている若者が多い事を、若者が教えてくれた

のであった。若者の間では『政さん』と呼ばれ、仕事に困った時は、かな

らず政さんに聞け、と言うのが合言葉になっているらしい。照れてにやけ

てしまったが、若者の目は真剣だった。思った。俺は、もう少し、頑張れる

と。誰かに必要とされたのは初めてだったのだ。