故郷 | ◆短編ブログ小説◆

故郷

引退して、初めて故郷に戻った。今日まで野球のプロとして二十年も頑張

った。街は変わり果てていた。見覚えの無い建物、景色。タクシーから窓

越しに見る風景に、自分が覚えているものは何一つ無かった。適当に降り

しばらく街を眺めた。本当にここは、俺が育った場所なのか。

 

 

引っ切り無しに車が通る。両親はここのどこかに住んでるはず。場所はま

ったく、見当がつかなかった。変わり果てた土地をさまよい歩く。二十年

越しの再開。二十年前に絶縁されていた両親から手紙が届いたのは、引退

した直後だった。住所が書いてあり、たまに遊びに来いと書いてあった。

 

 

さらに歩く。現役選手の頃、人に物事を教えてもらうという事は大嫌いだ

った。頑張って、自分で探そうと決意した。しかし、小さい頃通った学校

さえ無くなっている。二十年という年月は、これ程の変化をもたらすか、

と嘆いた。これは夢か。本当に両親は生きているのか。もしやあの世への

引導ではないのか。農家を継がずに家を飛び出した、両親の復讐。こうな

ったらお巡りさんに聞くか。「この大井町の○×アパートって、もう通り

越してますか?」「何言ってる?ここは大手町だよ。電車乗ってよ」タク

シーの運転手に告げる行き先を間違えただけだった。