故郷
引退して、初めて故郷に戻った。今日まで野球のプロとして二十年も頑張
った。街は変わり果てていた。見覚えの無い建物、景色。タクシーから窓
越しに見る風景に、自分が覚えているものは何一つ無かった。適当に降り
しばらく街を眺めた。本当にここは、俺が育った場所なのか。
引っ切り無しに車が通る。両親はここのどこかに住んでるはず。場所はま
ったく、見当がつかなかった。変わり果てた土地をさまよい歩く。二十年
越しの再開。二十年前に絶縁されていた両親から手紙が届いたのは、引退
した直後だった。住所が書いてあり、たまに遊びに来いと書いてあった。
さらに歩く。現役選手の頃、人に物事を教えてもらうという事は大嫌いだ
った。頑張って、自分で探そうと決意した。しかし、小さい頃通った学校
さえ無くなっている。二十年という年月は、これ程の変化をもたらすか、
と嘆いた。これは夢か。本当に両親は生きているのか。もしやあの世への
引導ではないのか。農家を継がずに家を飛び出した、両親の復讐。こうな
ったらお巡りさんに聞くか。「この
越してますか?」「何言ってる?ここは大手町だよ。電車乗ってよ」タク
シーの運転手に告げる行き先を間違えただけだった。