虹
ひどい雨だった。それでも、彼女の手を引っ張りながら、懸命に走る。帰
ろうか。聞いたが首を横に振った。ありがとう、と言えなかった。口に出
して言えなかった。今日は、彼女の22回目の誕生日。貧乏な為、吉野家
で、いつもの並ではなくネギだくを奢る事しかできない。こんなデートで
すまない。俺に金があれば。何度も自分を責めた。降りしきる雨の中で。
本当は動物園に行く予定だった。しかし、着いてみると入口には閉園の二
文字が。呆然と立ち尽くした。前日に調べなかった自分を恨んだ。折しも
も暗雲が立ち込め、そして大雨。彼女は楽しめてるだろうか。表情からは
読めなかったが、どう考えても楽しい訳が無い。もっとお金があれば。そ
んな思いが何時にも増して強くなった。やがて雨が止んできた。停留所ま
で走ろうとの事だったが、その必要も無くなったのだ。
ほっと一息入れた。晴れてよかったね。彼女が言った。
しかし、大切なのはこれから。どうやって彼女を喜ばすか。自分は金も無
い。どう時間を過ごすか。夕食は何にするか。プレゼント買えなかったこ
とをいつ謝るか。その時、眼前にあるものが出現した。虹。高所にいたの
で、より一層綺麗だった。ふと、彼女の目に涙が流れた。その涙の意味を
すぐには理解できなかった。
ひと休みした後、バスに乗って地元に戻った。後悔してるのかな。何か後
ろめたいものがある。何度も謝ろうと思ったが、言えなかった。それを察
したのか、彼女がこっちを見て微笑んだ。そして言った。何も買ってない
でしょう。楽しんでるようにも見える。先程の涙を思い出した。胸の中が
すっきりした。そうか。金が全てじゃない。他にも大事なものがあったな。