虹 | ◆短編ブログ小説◆

ひどい雨だった。それでも、彼女の手を引っ張りながら、懸命に走る。帰

ろうか。聞いたが首を横に振った。ありがとう、と言えなかった。口に出

して言えなかった。今日は、彼女の22回目の誕生日。貧乏な為、吉野家

で、いつもの並ではなくネギだくを奢る事しかできない。こんなデートで

すまない。俺に金があれば。何度も自分を責めた。降りしきる雨の中で。

 

 

 

本当は動物園に行く予定だった。しかし、着いてみると入口には閉園の二

文字が。呆然と立ち尽くした。前日に調べなかった自分を恨んだ。折しも

も暗雲が立ち込め、そして大雨。彼女は楽しめてるだろうか。表情からは

読めなかったが、どう考えても楽しい訳が無い。もっとお金があれば。そ

んな思いが何時にも増して強くなった。やがて雨が止んできた。停留所ま

で走ろうとの事だったが、その必要も無くなったのだ。

ほっと一息入れた。晴れてよかったね。彼女が言った。

しかし、大切なのはこれから。どうやって彼女を喜ばすか。自分は金も無

い。どう時間を過ごすか。夕食は何にするか。プレゼント買えなかったこ

とをいつ謝るか。その時、眼前にあるものが出現した。虹。高所にいたの

で、より一層綺麗だった。ふと、彼女の目に涙が流れた。その涙の意味を

すぐには理解できなかった。

 

 

ひと休みした後、バスに乗って地元に戻った。後悔してるのかな。何か後

ろめたいものがある。何度も謝ろうと思ったが、言えなかった。それを察

したのか、彼女がこっちを見て微笑んだ。そして言った。何も買ってない

でしょう。楽しんでるようにも見える。先程の涙を思い出した。胸の中が

すっきりした。そうか。金が全てじゃない。他にも大事なものがあったな。