道 2
危険は承知の上だ。一人で奴の家に乗り込む。クラスの連中には、このあ
ぶない計画に付き合せたくなかった。数日、修は風邪という事で学校を休
むことにした。仮病。今までそんなもの使ったことは無かった。本嶋と目
なんか合わせようものなら全てがバレてしまう様な気がした。全てを見透
かしたような目をしている。家にいる数日、修はずっと不安と戦った。そ
れでも、時は過ぎていく。七月三日、日曜日。修は決意して家を出た。
危機一髪。本嶋と目が合った気がした。修が隠れている電柱から、庭で遊
ぶ本嶋とその娘が見えた。奴の大事なもの。一度、娘の自慢話を顔を赤ら
めてしたことがある。その表情は、いつもの鬼ではなかった。できるなら
ば、娘の前で言いたかったのだ。あんたの父親がやっていることは、人の
道に外れてるのだと。やがて、二人が家の中に入った。歩き出す修の心臓
は高鳴りっぱなしだ。玄関を見た。家は恐ろしい程、貧困に見えた。こん
な家に住んでいたのか。少し意外だった。玄関に立つ。一呼吸置いた。
しかし、緊張は解けなかった。本当に俺は鬼の前で言えるのだろうか。
踏み留まってしまった。俺にはできない。諦めかけたその瞬間、ドアが軋
みをたて開いた。本嶋だ。「長井じゃないか。お前、風邪ひいてんのに家
出てんじゃねーよ。」不意を突かれ、背筋に冷たいものが走った。「どう
せ仮病なんだろ。あがれ。俺に用があるんだろ?」終りだ。修にしてみれ
ば、もはや計画などどうでもよかった。早くこの地獄から逃げたかった。