或るニート 一人目
怖い。人生は甘く無い。毎日、好きな時に食べて、遊んで、寝る。楽に
生きている間に、進は、すっかり対人恐怖症に陥っていた。
時計の針は五時を回っている。街を歩く人の流れは止む事を知らない。
引篭り生活も十一年目を迎えた。このままでいいのか。このまま死んで
しまうのか。いい年して定職にも就かず、家で親を頼り、怠けている。
変わりたい。
そう思って、今日は下降線生活に歯止めをかけるべく、外に出てみた。
十一年ぶりの外出だ。天気がよい。太陽が、きらきらと輝く。光の無い
生活を送り続けてきた。外の光も社会の光にも。ベクトルを修正したい。
人の目線。進は、己の胸の内部に恐怖心が芽生える変化に気がついた。
怖い。道歩く人間全てが刃物を持っているのでは。ありもしない事。だ
が、今の優は人が怖かった。長らく続いた、引篭り生活の影響であろう。
正常な判断力を失っていた。これから何をすれば。ならず者の住処はやは
り影なのか。怖い。人が怖い。身を危ぶんだ。こんな所で死ぬのは嫌だ。
家に引き返した。おれには無理だ。おれには。自嘲。おれのせいで、母
さんに迷惑をかけてる。生まれてこなければよかったんだ。気が滅入って
いた。
公園が見える。人は誰もいない。小さい頃、夢中で公園の中を走ってい
たあの頃。まだ優しかった父。進は、そこで己の幻を見ていた。幻が説得
してくる。勇気を出せ。幻の子供。少年の進は、今の進に力強く力説をし
てくる。親の事は余り気にするな。子を見ること親に如かずだ。人生一度
きりだぞ。幻の言葉は、次第に進自身の言葉となっていく。その度重なる
幻との会話は、いつの間にか自答自問へとなった。負けるな。一度きりの
人生。まだやり直せる。歩いていた。再び街に向かって。繰り返し呟く。