右ストレート | ◆短編ブログ小説◆

右ストレート

たて。自分に言い聞かせたが、体が言うことを聞かない。震えている。た

て。俺の力はこんなものじゃないはずだ。それともこれで終わりなのか。

読まれていた。右ストレート。これさえ当たれば。期待は外れた。こめか

み。かわされた後、強烈なカウンターをもらった。何も見えなかった。目

の前が真っ白になった。そして倒れた。これがとどめか。

事も無げにやってくれた。この試合の為に先生に仕込まれた右ストレート

は、相手を倒すところか、当たりもしなかった。

 

このまま終わるのか。呟く。カウント。声は聞き取れない。たて。もうだ

めだ。ごめんな、先生。やっぱプロにはなれないや。その時。動いた。あ
んなに打ちのめされたのに。急に体が軽くなった。何故だ。

とりあえず立ってみる。体中に、力が漲っていた。試合時間は少ない。よ

し、次の一発に賭ける。距離を詰める。パンチ。全て見える。もうやられ

ない。ひるんだ一瞬の隙を見逃さなかった。叩き込む。右ストレート。い

い感触だった。先生が最後に教えてくれたのはこのことだったのか。

でも、何故勝てたのだ。先生の遺影。そうか。今日は先生の一周忌でした

ね。先生に教わった右ストレートでプロに……。リングに涙が零れた。