右ストレート
たて。自分に言い聞かせたが、体が言うことを聞かない。震えている。た
て。俺の力はこんなものじゃないはずだ。それともこれで終わりなのか。
読まれていた。右ストレート。これさえ当たれば。期待は外れた。こめか
み。かわされた後、強烈なカウンターをもらった。何も見えなかった。目
の前が真っ白になった。そして倒れた。これがとどめか。
事も無げにやってくれた。この試合の為に先生に仕込まれた右ストレート
は、相手を倒すところか、当たりもしなかった。
このまま終わるのか。呟く。カウント。声は聞き取れない。たて。もうだ
めだ。ごめんな、先生。やっぱプロにはなれないや。その時。動いた。あ
んなに打ちのめされたのに。急に体が軽くなった。何故だ。
とりあえず立ってみる。体中に、力が漲っていた。試合時間は少ない。よ
し、次の一発に賭ける。距離を詰める。パンチ。全て見える。もうやられ
ない。ひるんだ一瞬の隙を見逃さなかった。叩き込む。右ストレート。い
い感触だった。先生が最後に教えてくれたのはこのことだったのか。
でも、何故勝てたのだ。先生の遺影。そうか。今日は先生の一周忌でした
ね。先生に教わった右ストレートでプロに……。リングに涙が零れた。