◆短編ブログ小説◆
Amebaでブログを始めよう!

ネタばらし

気づけば半年近くブログ放置してたなぁ……。

ほそぼそと短編小説書いてましたが、あんまり突っ込まれなかったのでこっそりネタバラシ。


実はうちの短編小説は全部、縦読み、斜め読みでした。

下の小説の赤く塗ってある部分がそうです。


それ以前の小説にも隠し文がありますので、よければ探してみてください。

(私のペンネームも、「楯垣→縦書き」という意味です)

仲間

 秒と持たぬ間に仲間達が次々と斬り殺されていく。あれだけいた仲間

も刻とその数を減らしていった。しかも、相手は一人だ。

 三日の如く鋭い刃物を構えその男が不敵な笑みを浮かべる。手が伸び

てくる。り降ろされた刃の向こうに仲間の死骸が増え続けた。自分はた

だ椅子に座、そんな仲間たちを眺めることしかできない。目の前の鏡。

鏡越しに、男様子を伺う。男は刃物を選んでいるようだ。どれだけの時

が過ぎたのか。に仲間が減っていく。それを、まるでゴミを捨てるかの

ように処理する、しい女。今までありがとよ。最後に仲間へ呟いた。

「こんな感じでいいしょうか? さっぱりしましたねぇ」

 久し振りの散髪だ。っきりした気分で美容室を後にした。

リストラ

 一年と三ヶ月。長い付き合いであった。今日、ついに捨てられた。上に

立つ人間には、情けというものが無いのか。これまでずっと無能な人間達

の下、称えられることもないまま、ただ、黙々と付き従ってきた。こいつ

らのことは、友だと思っていた。確かに仕事は辛かった。だが、どんな時

も文句、聞苦しい言い訳など言ったことは無い。傷ついても耐え、社員た

ちを助けて、手足となり共に働いてきた。それなのに捨てられた。

 

 何時間が経ったのか。クビになってからの時間が、とても長く感じる。

 人のいない公園で、ただ、雨に打たれるがままの時間が続いている。子

供がやってきた。俺の存在など無視するかのように遊び始める。

 解ってはいた。この世界は弱肉強食。俺のような立場の弱い奴は、まる

で読み捨てられる新聞並みの扱いだ。それでも、一年以上も生き延びる事

ができた。俺の友人などは一ヶ月で捨てられたものだ。いい環境の中で、

生きてきた。あわよくば、この先何十年もいれる、という期待も少しはあ

った。が、捨てられてしまった以上は、もはや何も言う事はできない。こ

れからの人生、俺はどう生きていけばいいのか。果ては生きられるのか。

 

 気がつけば、ゴミの中にいた。俺は、これからどうなるのか。このまま

誰にも気付かれず、この世から消えるのか。俺が死んだところで悲しむ人

間などいない。もう少し生きたい。思っても無駄なことだ。やがて夜も更

ける頃、“俺”こと『軍手』は、焼却炉の中で、灰となろうとしていた。

密使

 時間にして二十分程だろうか。電車の片隅。悠太は生きた心地がしなか

った。駅。階段を上る悠太は、人との接触に細心の注意を払った。大金を

持っている。落とすわけにはいかない。今の自分には払えない金額だ。改

札口を抜け一目散に走った。目的地。地図は頭に叩き込んだ。この大金で

ある物を買え、と言われた。何を買うかは知らない。紙を渡された。この

紙を渡せば文句は言われないらしい。紙は、悠太のポケットの中に隠して

ある。それを読むことは出来なかった。難解な記号で書かれているのだ。

 駅前の交差点から少し歩くと目的の場所が見えてきた。建物は古く、ど

こか祖母の家の匂いがした。その人物と目があう。髪は剃っており髭を蓄
えてる。事と次第によっては、生きて帰られないような雰囲気すら醸し出

している。息を吐いた。自分を落ち着かせようとした。だが足が震えは止
まない。気を抜いてはいけない。睨みつける。目。負ける。自分の中の何
かが折れていくのが解る。やがて、そいつが不敵な笑みを浮かべた。 


何の用だい。そいつに紙を渡した。ロクな物食っていないのだろう。そ
いつの足取りはまるで、ろう人の様であった。ブースのような場所から、
ロボットのような動きで白い袋を持ってきて悠太に渡した。グッバイ。変
な挨拶をされた。えたいも知れない人物だ。

よるも更けてきた。うちに戻ると、かあさんにいい匂いがするその白い
袋を渡した。なかなか初めてにしては上手くいったじゃない。とにかくあ
の店のお饅頭は美味しいのよ。

思った以上に、うまい食べ物だ。


 悠太は五歳にして、人生で初めての“お使い”を経験した。あの変なおじ
さんと、買ってきたお饅頭の味が、いつまでも悠太の中に残っていた。


派遣バイト

こんな仕事に、果たして未来はあるのだろうか

 そう思ってしまう日々がもう一ヶ月以上も続いている。政雄は、そう考

えてはいながら、それでも今の生活から抜け出せない自分が情けなかった。

 椅子のうえに置かれた紙。一人一人の力が、やがて巨大な物を生み出す

原動力に。文面ではそう書かれていても、要は奴隷扱いである。派遣の仕

事など何の勲章にもならない。毎日、決まった時間に工場に行き、毎日同

じ仕事をし、そばにはいつも同じ人がいる。友達も出来ない。新しい技術

も身につかない。かと言って、生活があるから辞めるわけにもいかない。

 明日も、工場に駆り出される。35歳にもなって、若者と共に働くのが

苦痛だった。出勤表を書く時間はさらに辛い。あの人働きすぎだよ。ちゃ

んとした仕事に就けばいいのに。出勤表を覗かれては、影でそう言われて

いるような気がする。辞めてやる。仕事が終わるたびに、思う。しかし、

新しいアルバイトを探している自分の姿が想像できない。システムとして

は、派遣ほど楽なものは無い、と考えているのだ。このシステムに甘え続

けた結果が、今の生活なのだ。

 翌朝、工場へ向かった。ニートの普及は広がり続けている。働いてるだ

け、まだマシだな。制服に着替え、風通しの悪い工場で、今日も作業が始

まる。何分かすると、一人の青年が政雄の傍に立っていた。

「あの、これどう組み立てるんですか? 小さくてやりにくいんです」

 政雄に仕事を聞きにくる若い連中は多い。説明してやると、嬉しそうに

お礼を言う。何が嬉しいんだ。政雄には、それが解らなかった。

 昼休み。煙草を吸って、弁当を食べる政雄に、恐る恐る話しかけてくる

若者がいた。先ほどの若者だ。話しかけにくいのだろう。緊張している。

「さっきは教えてくれてありがとうございました。嬉しかったです」

「何が嬉しいんだ?仕事なら俺より社員に聞いた方が早いだろ」

「いや、社員の人は怖いというか近づきたくないんです。ほとんどの人が

ロボットみたいで。向こうはそうは思ってないんでしょうけど。それに先

輩の方が優しく教えてくれるってみんな言っていますよ」

気が付けば、社員を除くと最年長になっていた。作業も、一番早い。そ

の後、そんな政雄を頼りにしている若者が多い事を、若者が教えてくれた

のであった。若者の間では『政さん』と呼ばれ、仕事に困った時は、かな

らず政さんに聞け、と言うのが合言葉になっているらしい。照れてにやけ

てしまったが、若者の目は真剣だった。思った。俺は、もう少し、頑張れる

と。誰かに必要とされたのは初めてだったのだ。



或るニートの一日 三人目

 働くサラリーマンを見て呟いた。ご苦労なこった。春雄の一日が始まっ

た。いつもの食パンにジャムをつけ頬張る。うまい。朝の九時。テレビは

働く人たちの特集が流れる。働いたら負けだろ。また呟く。十時。極上の

朝風呂から出た春雄に、睡魔が襲い掛かった。いつものことだ。昼まで寝

るか。今は負けてるやつらが一生懸命働く時間だ。その中、のんびり眠れ

る今の自分だけは勝っていると思ってる。働いたら負けかなと思ってる。

 十二時。窓外から降り注ぐ日差しで春雄は目を覚ました。テレビをつけ

る。タモさん。かなり眠い。だが、タモさんだけは見逃せない。コンビ二

で買い溜めしたパンとおにぎりを食べながら思う。タモさんを毎日逃さず

見る自分は勝ってると思ってる。タモさんが終わると、また布団に潜りこ

む。徹子の部屋。こうやって、好きな事が出来る今の自分は勝っていると

思ってる。いつの間にか寝ていた。五時。外を歩く子供の遊び声に目を覚

ました春雄は、また風呂に入る。坊主頭に熱湯を浴びせた。気持ちいい。

風呂は最高かなと思ってる。

六時。コンビ二の牛鮭定食と、二つのパンを食べる。六時半。春雄は部

屋でテレビをつけてゴロゴロする。十時。ゲームをする。後は彼女さえで

きれば究極勝ちかなと思ってる。二十四年間彼女はいないが、いつかはで

ると思ってる。自分の顔を鏡で見た。歳の割に老けてるかなと思ってる。

 
 明日はテレビの取材が来る。勝ってるから無様な姿は見せたくない。カ

メラに向けて思いっきり言ってやる。世の中の職員たちよ。働いたら負け

かなと思ってる。今の自分は勝ってると思う、と。


(このお話はフィクションです)

或るニート 二人目

 一年前の春。史也は希望に夢を膨らませて、入社式に臨んだ。楽しい事

やつらいこと、何もかもが楽しみだった。今は、そんな日々が懐かしい。

 下らないミスだった。前日に何度も確認してれば。悔やんだ。待ち合わ

せの時間を間違え、大事な打合せに参加できなかった。新人が無断欠席。

噂話は会社中に広まった。辞めた。社会の厳しさを思い知らされたのだ。

はがきが届いている。合同説明会のご案内。行く気になれなかった。

 

 なにもする気が起きない。退社した直後は、すぐに再就職を目指して自

分なりに頑張った。だが、いざエントリーして働く自分の姿想像した途端

にめんどくさくなった。社会に出たくない。怖い。働きたくない。それか

ら読書に耽るようになった。面接も全て辞退して、ただ本を読んでいた。

 みんな、何しているんだろう。時々、そう思う。大学の卒業式、友人と

皆で夢を語り合った。史也の夢。それは、それなりに稼ぎ、家族と共に暮

らすこと。皆が頷いてくれた。お前ならできる。そう言ってくれた。

 

 あれから一年。引篭り始めて八ヶ月になる。既卒就職は厳しいと、よく

見るインターネットの就職掲示板に書いてあった。就職は無理なのか。行

き場を失った思いだ。

 所詮、俺にはサラリーマンは向いていなかったのだ。その時、突然頭の

中から煩わしさが消えた。そうだ。サラリーマンが無理なら職人だ。職人

ならば、己の腕次第で食っていける。確かに厳しい道だ。だが、その分野

で右に出るものがいない、とまで言われるようになれば。文也の体中、特

に下腹部に気が集まっている。一年前の春も同じ気持ちだった。測量の職

人になろう、と考えた。学生時代、アルバイトで測量助手を経験した。

 読まずに放り投げられていた、アルバイト情報誌に飛びつく。測量士。

どんな会社でもいい。アルバイトとして経験を積み、いつの日か、認定試

験で合格する。電話を握る史也の手は震えていた。


「下に降りろ! わかったら、さっさと作業を始めろ!」

 ささいな事で怒鳴る社長がいる小さな会社だった。しかし、史也は負け

ない。一度消えかけ、またついた火だ。何時か、測量士になる明日を夢見

て。史也の第二の人生が始まっていた。

 

或るニート 一人目

 怖い。人生は甘く無い。毎日、好きな時に食べて、遊んで、寝る。楽に

生きている間に、進は、すっかり対人恐怖症に陥っていた。    

時計の針は五時を回っている。街を歩く人の流れは止む事を知らない。

引篭り生活も十一年目を迎えた。このままでいいのか。このまま死んで

しまうのか。いい年して定職にも就かず、家で親を頼り、怠けている。

 変わりたい。   

そう思って、今日は下降線生活に歯止めをかけるべく、外に出てみた。

十一年ぶりの外出だ。天気がよい。太陽が、きらきらと輝く。光の無い
生活を送り続けてきた。外の光も社会の光にも。ベクトルを修正したい。

人の目線。進は、己の胸の内部に恐怖心が芽生える変化に気がついた。

怖い。道歩く人間全てが刃物を持っているのでは。ありもしない事。だ

が、今の優は人が怖かった。長らく続いた、引篭り生活の影響であろう。

正常な判断力を失っていた。これから何をすれば。ならず者の住処はやは

り影なのか。怖い。人が怖い。身を危ぶんだ。こんな所で死ぬのは嫌だ。

家に引き返した。おれには無理だ。おれには。自嘲。おれのせいで、母

さんに迷惑をかけてる。生まれてこなければよかったんだ。気が滅入って

いた。

公園が見える。人は誰もいない。小さい頃、夢中で公園の中を走ってい

たあの頃。まだ優しかった父。進は、そこで己の幻を見ていた。幻が説得

してくる。勇気を出せ。幻の子供。少年の進は、今の進に力強く力説をし

てくる。親の事は余り気にするな。子を見ること親に如かずだ。人生一度

きりだぞ。幻の言葉は、次第に進自身の言葉となっていく。その度重なる

幻との会話は、いつの間にか自答自問へとなった。負けるな。一度きりの

人生。まだやり直せる。歩いていた。再び街に向かって。繰り返し呟く。

人生一度だ。人込み。もはや刃物を持つ人は誰もいなかった。

老人1

東へ行け。神のお告げはそう言った。山手千尋はすぐに東へ向かった。上

京して、ちょうど一年。今、千尋の全ての行動は神の声が決めていた。


神のお告げさえ守っていれば何時か幸せがやってくる。彼を忘れられる。

田舎暮らしからの付き合いだった恋人がいた。未だに忘れられない元彼。


秋風が二人の間に吹いたのは三ヶ月程前。俺ら別れよっか。電話のその言

葉が、そのまま別れの言葉となった。二十歳の千尋の心は荒れた。確かに

原因は自分にあった。ろくに連絡もしてなかった。だからって…。心が制

御できなくなった。占いに頼り始めたのはそれからだ。声。神のお告げに

徒っていれば、神に責任転換できる。だから自分は苦しまないで済む。下

町を出て歩き続けた。歌手になる夢も一向に芽が出ない。母の顔が浮かび

上がる。母さん、ごめんね。毎月仕送りしてもらってるのに。私このまま

野垂れ死ぬのかしら……。それでも神のお告げ通り、千尋は東に歩いた。



鶯色のスニーカーはすっかり破れていた。幸せはいつ訪れるのか。希望の

谷間を求めて、ひたすら歩いた。やがて公園に着いた。ベンチに座る。今

日も何も起きないのか。落胆した。こんな生活いつまで続くのだろう。夕

暮れの景色が千尋の心を表している。諦めの気持ちもあるが、一方で、一

里の希望も捨てていない。私には神の声が聞こえる。それを心の支えに。


西の空に日が落ちようとしている。朝から歩いていたので疲れていた。今

日は帰ろう。その時、ふと一人の老人に目が留まった。テントにて一人で

暮らしているようだ。そのテントに、一枚の紙が貼ってあった。『老騏千

里を思う』そう書いてあった。老人と目があった。寂しそうな目だ。

老人2

田舎に住んでいた頃を思い出した。その寂しげな老人の目が、ふと記憶の

端にいた祖父を思い出させた。祖父とはよく話したものだ。何かを将棋の

駒に例えるのが大好きな人だった。人生、諦めてはだめだ。最後まで追い

込まれても、一つの歩で大逆転することもある。懐かしい言葉だ。お前が

巣立つ時、この歩の精神を忘れるなと最後まで言っていた。祖父の人生は

鴨の水掻きのようなもの。若い頃から苦労していたようだ。そんな祖父が

大好きだった。やがて千尋の頭の中に様々な考えが交錯していた。私は狐

塚にでも来たのだろうか。この老人の透き通る目の奥の青々しさが、心の

池に沁み込んでくるようだった。これは現実なのか。混乱していた。何か

袋小路にでも迷い込んだかのように。それでも、どこか心地良い。老人の

目は、千尋に安らぎを与えてくれた。何故かは解らない。どこか頭の中が

白くなるような感覚だ。やがて我に返った時、老人は歩いていた。




高齢なのだろう。老人はゆっくりと、それでも千尋から目を逸らさぬまま

田植えをするような姿勢で近づいてくる。千尋は慌ててベンチを立った。

馬鹿たれ! 老人の一喝が飛ぶ。千尋は腰を抜かした。「お前は今、この

場を逃げようとしただろう?」誤解だった。「わしみたいなホームレスが

新鮮に映ったか?」「違います。私は貴方と話がしたくてベンチを譲…」

大口を叩くな! 千尋の言葉が終わらぬ間に、また一喝が飛ぶ。「今日は

久々にいい目をした若者と出会えたのに。がっかりじゃ」千尋は冷静さを

保てなかった。何故、自分が怒られているのかわからなかった。それでも

新奇を好む千尋の胸は踊っている。老人にとりあえず謝ってみた。すると

宿泊していくかね、と聞かれた。身の危険。少し考えた。それでも一世一

代の機会かも知れない。神のお告げがここへ向かわせたと考えるなら。色

々と不安も考えていると老人が言い放つ。「安心せぇ。わしだって昔は植

木職人で、小さな孫だっていたんだ。お主にそっくりな孫が。交通事故が

原因で死んでしまったが、お主と同じいい目をしていた。だから安心して

宿泊しなさい。襲ったりはせん。話がしたいだけじゃ」千尋は頷いた。